豊かさとお金 (3)


【5】「投資しない基準」を持つこと

(1)資金の一部が運用されない

「ネット情報」「煽り広告」を流して一般民のスマホに到達させるには、それなりの資金が必要です。広告を行っている時点で、顧客が投資のつもりで支払った資金は、一部が広告費の回収に回るはずです。また、「紹介システム」の場合、比率は個々に違いますが、たとえば紹介ポイントが設定されている、とか、紹介者の数や組織化でボーナスポイントが増えるとか、ステータスアップされるとか、新規入会者の資金が2割とか多いと4割程度、投資ではないところ(直上の紹介者への返礼ポイントなど、先行者へ還元する利益の吸い上げ)へ使われます。100ドル投資した人のお金が、実際には60ドルしか投資に使われず、その元金がせめて120ドルにまで増えるには、倍増しなくてはなりません。投資者は2割増やすだけのつもりが2倍に価値が上がらないといけないわけです。これは投資では高いハードルになります。また、流れてくる案件自体が至って真面目で詐欺でない場合でも、プロジェクト側は、万が一、案件が成功しなくても登録金で潤う仕組みになっている場合がよくあります。つまり入会金商売・初期投資商売です。

(2)投資額によって利益が大きく異なる設定

本来、ちゃんとした投資ならば、100ドル投げ込んだ人と1000ドル投げ込んだ人との差は、利益率は全く変わらないか、あるいは少しだけの違いであるのが普通です。ところが、多額の掛け金を一度に入れると多いポイントをつける、とか、追加資金を入れるだけで、ボーナスや利率が目に見えてアップするという場合、「どこかおかしい」と思わねばなりません。それは本当に純粋な投資なのでしょうか?巧みに現実投資を装った集金商売の側面はないのでしょうか?実は裏で、「集金で運営側が直接何らかの利益を得る仕組み」になっているのなら、多額の投資を喚起して契約一人あたりの単価を上げる仕掛けは必須になるはずです。真面目な投資システムの運営なら、20人が百ドルを預けても、2人が千ドルを預けても、まったく同じ合計2000ドルの元金が増えるスピードに違いはないはずです。どうやって、100ドルよりも1000ドルの方が遥かに高い利益が出るかのように宣伝するのでしょう。

(3)資金を引き出させない

集客型の投資案件では、とにかく資金が引き出されないようにあの手この手を打ってくる例がよく見られます。追加資金投入に通常の倍のボーナスポイントを設けるキャンペーンとか、さらに資金を6ヶ月間とか12ヶ月間ステーキング(預けたまま凍結して引き出せない)することによって、利率をとても高く設定する、とかの勧誘です。

また、ネットワークビジネス型の投資案件では、後期入会者は利益が少ないため退会者も増え、入会客増加がスピードダウンするとたちまち運営が困難になる仕組みが多く、継続困難になった苦肉の策としてボーナス利率や高額ポイント供給、あるいは、高利率の長期ステーキングでの追加投資を誘うことがあります。一般利率が20%だった投資案件に、あるとき、キャンペーンと称して、6ヶ月ステーキングする追加投資に30%の利率が着きます、と宣伝が流れたとします。すでにその時点で、会社は集客率のスピードが鈍ったことや、あるいは資金の確保の面などで経営的に黄色信号が点っていると考えた方が良いかも知れません。

6ヶ月のステーキング期間が満期になる頃、さらに追加投資で1年ステーキングすればより高額の利率が着く、などというアナウンスが流れることも想定されます。とにかく会社側は苦しくなると、会員が現金を引き出すことを「先送り」することにのみ腐心するようになってくる場合が多く見られます。

もちろん、長期ステーキングプランを追加提示した投資先が必ず倒産するわけではありません。しかし過去資金難に陥ったり、実態のない詐欺だったことが発覚して結局消滅した投資案件などで、一定程度のメンバー集客期間のあとに、「高利率のステーキングキャンペーンプラン」が提示されたことが、「よくある手」だったことは事実です。詐欺案件だった例と、わざわざ顧客サービスのスタイルを揃える必要があるのは、なぜでしょう。と私はどうしても感じてしまいます。

(4)価格や利益の見込みを宣伝する

特に暗号通貨案件などに目立って多いのは、「将来価値の誇大表現」です。社会で次世代の情報ネットワーク化が進むと、新しい○○が標準になるから、このコインは世界中で利用され、価値は200~1000倍が見込めます。などという言葉です。

社会において、実際にどのコインも非常に怖いのは、将来普及するよりも前に、投機的に購入した人たちが、市場上場などの直後に大量に売り払いに走り、価格が乱高下することで、社会から信頼を得られないまま終わる例が極めて多いことです。

「一刻を争う心臓移植ネットワークを実現する世界共通の医療コインの誕生です」「決済時間の劇的短縮によってクレジットカードに現実に載せられる初のコインが設計されました」「製造・流通・小売店に至るまで製品の在庫状況や消費期限を一括管理できる動的データベース管理システムが完成し、連動して手数料決済を代行するコインが誕生します」。。。すべて、すばらしい企画で、近未来の人類や経済社会を救うプロジェクトのようです。

しかし実際、こうしたコインも投機筋の餌食となり、上場直後に価格が20倍以上に値上がりしたあと、数千分の1にまで暴落し、買う人がいなくなり、上場手数料を企業側が支払えなくなり、取引所から上場廃止となり、社会から消滅する。

こういうコインが、何百も登場しては消えています。

新規暗号通貨案件が怖いのは、プロジェクト自体がしっかりしていても、責任ある投資家ではなく相場価値のみで寄ってくるユーザーに売ってしまうことによって、結局短期間で自爆することです。一般から投資金を集めた新規コインの大半がつぶれるのはこのせいです。一見矛盾していますが、「広く募集された新規コイン」は、ほんとうなら将来性が確かなものでも、投機的な売り逃げの具にされれば(極端な価格の上下が起きて)社会的な信頼を得られずに終わる危険性があるわけです。スタート時に一般からの個人投資を集めなかったコインの方が、安定して長生きする例が多い、という皮肉が起こっています。

【6】暗号通貨の罠

多数のお問合せをお受けする中で、私のところへ「○○コインというのを聞きましたが有望ですか?」という、暗号通貨に関する質問はとても多く寄せられています。

暗号通貨の判断基準についての話をお聞きになる前に、暗号通貨で利用されている「ブロックチェーン」について少し初歩を知っておきたい方は、昨年2月19日の録画ではありますが、とあるチャンネルで私が解説した4分ほどの抜粋版がありますので、ご覧頂くことをお勧めします。すでにご存じの方は飛ばして以下のテキスト文章へお進みください。

結論から申しますと、有望な新しいコイン、というのは、極めて稀だと申し上げなくてはなりません。特に、煽り宣伝の罠にかからないように、1つ予防薬をお渡ししておくとしたら、ストーリーの中に、「ビットコインのことを悪く言う」内容がないか、をチェックしておくのも有効な手段です。

2009年1月3日に作動しはじめたビットコイン以降、2012~2013年には、今もよく知られるイーサリアム、XRP、ドージコインなどが誕生し、その後数千種類の暗号通貨が誕生しました。取引所上場申請が出されたコインは2万種類以上です。

今回は、中央集権(XRP)・非中央集権(BTCほか)とか、言語(C++、ERC-20、Ripple、Centrality、Cardanoほか)の違いとか、暗号通貨そのものの仕組みのことは大半を除外して、実用的な話を進めてみましょう。

よく、新しいプロジェクト発表者は「次世代のコイン」と言う言葉を使いますが、確かに企画が新しいことは額面通り受け入れるとしても、あたかもビットコインの時代が終了するかのように決めつけて言う輩が多いのは困ったことです。

ビットコインがなくなるなどということを断言する見方は、一級の経済学者の間では、誰からも出てこない特殊な意見だからです。

少なくとも世界120以上の国や地域で、その国の法定通貨と合法的に両替ができる暗号通貨は今も、ビットコイン(BTC)以外にありません。また外国人メンバーを正規に認める取引所が多数あることで、たとえば米ドルさえ手にすれば、自国で両替できない国々の人も、ビットコインを保有したりお金に換えることができます。

個人では巨額の国際送金に対して、身分審査などで1ヶ月待たされることも普通に起こるリアルの国際銀行システムに比べ、いくらビットコインの速度が速くないと言っても、代表的な取引所で30分~数時間以内に資金移動ができる手段と考えれば、現金手段より、どれだけ便利か知れません。

また、2000種類以上のコインが群雄割拠し、トップ10位のコインもシェアを大きく変化させて毎年順位が変わる中で、ビットコインほど世界中で両替可能で、暗号通貨の中では価格変動が緩やかで、時価総額が巨大な「別の標準コイン」を、数年以内に入れ替わるように作れますと宣言できる人が居たら、それは、よほど無知な楽観主義者か詐欺師しか考えられません。

誰がなんと言おうと、言葉巧みに心理的に煽ろうと、ビットコインは当分無くなることはないでしょう。

ビットコインはC++言語で書かれたプログラムです。アドレスは34文字。これと、イーサリアム系のERC-20言語(アドレスは42文字)が読み書き可能であれば、既存のいくつものコインを扱う取引所は設計可能です。何千種類も出現した暗号通貨の9割以上は、「アルトコイン」と総称され、イーサリアム(ETH)が利用し公開しているERC-20言語で、イーサリアムの弟分として登場しています。そのため取引所側は、ビットコイン以外に、ERC-20言語に対応するだけでも、多数のコインを上場させることができます。

しかし一方、世の中で、「決済時間が大幅に短縮されました」などという触れ込みで発表された、「とある暗号通貨」は、イーサリアムとは互換性のない別言語で書かれています。それだけではなく、アドレスに非常に多い桁数を使うものもあります。ビットコインやイーサリアムを扱う取引所が、まったく異なる言語も読み書き計算できるコンピュータ機能を導入しなければ、そのコインは上場できません。「優れたアルゴリズムの本命コイン」などと自称する新しい暗号通貨があっても、実際には、コインの善し悪し以前に、取引所がそもそも「その言語を扱える機能を搭載する」、という「上場障壁」があるわけです。きっと、普及には相当のコストと年数を要します。

コイン(暗号資産)のお話は、どれだけご紹介してもまだまだキリがないので、このへんでいったんとめておきましょう。ただきょうお話しした事例だけでも、事実とは違った説明や煽り文句の数々が、たとえば暗号通貨の案件でも当たり前に使われていることはご理解いただけることと思います。「投資」について考える、あるいは判断する上で、きょうの記事が少しでも参考になれば幸いです。

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